謙虚さが染み渡る空間・アアルト自邸

2010年初冬 ヘルシンキ@フィンランド

 

【アアルト自邸】

2010年ヘルシンキの旅の最後の記事はアアルトです。

 

アルヴァ・アアルトとはフィンランドのを代表する建築家、この建物は今から75年前に建てた自邸です。38歳の時にこの建物を(アトリエ兼自宅)として建て、亡くなるまでの実に40年間、自宅として利用していました。

 

ヘルシンキ中心部からトラムに乗って終点のそば、中心部からでも20分くらいですが、とても静かな一角に、ひっそりと建っています。

 

2年前にもここに来たのですが、下調べもせず立ち寄ったので、内覧ができる時間に合わず、残念ながら外観だけ望んでいたのですが、今回の旅は、ここを訪問するのが大きな目的でした。

 

内部の仕事場(アトリエ)です。高窓からの光は、周りが雪模様も幸いし、実にやさしさがありました。このアトリエに最高で10人が働いていたそうです。

また主賓としてのアアルトは、特に場所が決まっていたわけではなく、写真集によると、都度席替えをしていたようです。奥の窓際はアカデミーのグラウンドが望める一等席でしたが。

 

内部ではこのようなビニールを履きます。

 

1階リビングです。奥の扉から先がアトリエです。

 

アトリエは二段上がっており、逆にこのスキップフロアは、公私とを分ける重要な要素のようでした。この大窓から差し込む深い明かりはとても印象的でした。

 

色合いといい、間違いなくアアルトは日本に来た経験があったと思いましたが、説明していただいたスタッフ曰く、「よく質問があるが、一度もなかった」そうです。なぜこれほどまでに日本を感じられるのだろうと、感嘆しきりでした。

 

大窓の横には換気のための小窓があります。これを開けると冷気が入りこみました。こちらでは冬を考えた家づくりから、このような通気の考え方があたりまえとのこと。

 

もちろん網戸はありません。そして内開きです。ちなみに大窓のガラスは3枚(トリプル)ガラスです。

 

自邸を建てるにあたって、オリジナルのハンドルをデザインしました。金属の硬さ・シャープさと相まって、柔らかくつかみやすい曲線のハンドルでした。

 

リビングの隣はダイニング。この椅子は、全体のイメージとは少しそぐわない雰囲気ですが、それもそのはず、新婚旅行のイタリアで、気に入って購入してきた椅子とのこと。

 

アアルトは現在でも新品がつくられている程有名な椅子をデザインしているにも関わらず、自宅の椅子は新婚旅行の記念品を使っていたという。これぞインテリアの持つ意味を、あらためて感じさせていただきました。

 

ダイニングの壁面には、アアルトの家具の原型の材料が飾ってありました。カバ材の先に切れ目を入れ、その隙間にスライスした材を差し込み、くねっと曲げる。これで家具の脚をつくります。

 

このデザインの脚はアアルトレッグと呼ばれています。素晴らしい工業デザインです。

 

ちょっとした工夫なのですが、右側にはサブ空間としての廊下とキッチン、家政婦さんの部屋があるのですが、そことをカーテンによって、柔らかく仕切る工夫が施されています。また開けている際に、カーテンが廊下にはみ出してこないように、小さなポケットがあります。このような考え方は随所に見られ、感心&感銘を受けてしまいました。

 

二階に上がり、娘さんの部屋には、何やら面白い照明が。ベースはアアルトデザインのベル型照明器具なのですが、これに壁面の絵を照らすために、このような口がつきました。なんとも滑稽であり、つい見入ってしまう不思議な照明でした。

 

二階のサブリビング

 

二階にはバスルームがあります。ここの洗面はリフォームしたようですが、この洗面ボウルもアアルトデザインのもの。使い勝手を重視した機能美で、とてもうれしくなりました。できれば使ってみたかった。

 

一階に戻り、これが玄関です。靴の世界ということもあり、実にシンプルな玄関です。この玄関は北側なのですが、そもそもなぜ玄関が南にないか、というと、少しでも光を居室に取り込みたいという考えから、通過でしかない玄関は北側で、最低限の空間になっているとのこと。

 

アトリエ横には図書室があり、傍らには小さな梯子があります。この梯子はテラスを経由し二階へとつながっています。二階のプライベートの時間にいて、ふとしたきっかけでアイデアが生まれたとき、この梯子を経由して仕事場に急行したそうです。ONとOFFとをつなぐ重要な階段だったようです。

 

雪化粧に映える外観です。冬に来て本当に良かったです。白壁と濃い板壁とのコントラストが実に美しいです。

 

【アアルトのアトリエ】

自邸を建てて20年後、自邸とは600mのところに仕事場(アトリエ)をつくりました。

 

さすがに自宅兼事務所では手狭になったことと、プライベートをしっかり確保したい、という大変よくわかる理由から、この地にアトリエを開きました。このころの仕事ぶりが感じられる、実に実験的な要素も盛り込まれた建物でした。

 

自宅同様、実に小ぶりなエントランスです。

 

二階への階段。手すりや階段の上がり具合など、とても歩きやすい階段でした。

 

やわらかい光が差し込むアトリエ。ここは現在はアアルト財団の事務所として活用されています。そのために一日一回、1時間のみの見学です。

 

アアルトデザインのチェア65という椅子、いくつか座る機会がありましたが、私としてはこの65番の椅子が一番
フィットしました。いつか購入します。

※その後手に入れる機会があり、現在事務所で使っています。

 

アトリエの横にはミーティングルーム。たくさんの図面入れがありますが、残念ながらここはカラ。本物の図面はアアルト美術館にあるそうです。

 

1階には増築した部分に食堂とキッチンがあります。写真にはわからないのですが、ここにも自宅ダイニング
から受け継がれた工夫が随所にありました。(スタッフ休憩中)

 

もっともポピュラーなアアルト・スツール60という椅子です。3脚何気なく積んでありますが、こんなフォルムも
美しいです。

 

ここはスタジオ。いわゆる空間の実験場です。

 

古い写真を見ると現在のインテリアとは若干差異がありましたが、実験場としての基本的な機能は変わりません。照明、手すり、外壁、内壁、断熱、家具に至るまで、ここで検討し、世に送り出されました。アイデアの心臓部にいるようで、不思議な緊張感を覚えました。

 

自邸とアトリエ、共通する感想は「謙虚」さ、です。空間、時間、環境、人づきあい、すべてに対する個から発せられる謙虚さを感じます。建物から人となりが感じられた今回の経験は、とても重要なものでした。

 

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