フィンランドの東には広大なロシアが広がっています。フィンランドの首都ヘルシンキと、ロシアの歴史都市、
サンクトペテルブルグとの間は、距離にして約300km(東京⇔仙台よりも近い)
この間、国際特急が一日4往復走っており、両都市を3時間半で結んでいます。
国境から38kmロシアに入ったところ、サンクトペテルブルグから約130kmのところに、ヴィヴォルグという町があります。ここに、ある歴史的な図書館があります。
この街は、世界大戦の前は、フィンランド領だった場所。いまから80年以上前に、当時ヘルシンキに次ぐ、フィンランドの第二の都市として、ヴィープリという都市でした。
その際造られたのが、この図書館。フィンランドの建築家 アルヴァアアルトによる比較的初期の頃の建物です。戦後、国境線が変わり、ヴィープリは、ヴィヴォルグという名前に変わりました。
そして図書館は老朽化により未修繕のまま朽ちていくのですが、フィンランドとロシアの協力で、大規模な修繕が行われて、今から2年前に奇跡的に復活した、市民図書館なのです。
この丸椅子もアアルトの設計によるもので、現在でもアルテック社から作られている、スツール60という椅子なのですが、実はこの図書館のために当時デザインされた椅子なのです。
ヴィヴォルグの駅
ロシアの駅は、入場に金属探知機もあり、駅員や警察官も相まって物々しい雰囲気があります。そして外国人は何度となくパスポートチェックを受けます。
駅から歩くこと10分、写真で見覚えのある、目的の図書館が見えてきます。
街の中心部に大きな公園があり、その一角にありました。
最初の写真は、波打つ天井が有名な講堂なのですが、その部屋を外から見た部分です。まるでカーテンと相まって、外観からも実に美しく見えます。天井が波打っている理由は、講堂が細長いため、話し声が後ろの席まで届くための工夫によるものです。理にかなったデザインです。
児童コーナーの様子。書籍のある本棚の高さは約1.5m、その上にある南面の大きな連窓。不思議と明るさがあるにも関われず、外を行きかう人が目に入りません。
照明も当時のものが復刻されました。シェードは紙でできています。
これがオリジナルの頃の写真。現在の姿と比較すると、右側の手洗いがベンチに変わっているのが分かるかと思います。これは当時は地下水とつながっていたそうで、充分おいしい水が出ていたとのこと。
その後戦争により、飲めなくなったことで、使われなくなってしまったそうです(スタッフ談)。使用した期間がオープン後わずか3年。
児童コーナーの一角には、先ほどのスツール60のキッズバージョンが。シンプルながら、実にやさしいデザインです。
児童コーナーへのエントランス。ヘルシンキ市内に同時期に設計したアアルト自邸があるのですが、そこでも見られる外壁につけられたポール。ツル性の植物がからみ、立体的な植栽を演出する工夫です。
正面に回り、メインエントランスを入ったところにある大きなクローク。この土地ながらのスペースです。外部は寒くても、内部はあったか。重いコートを預け、ゆっくりと読書を楽しむことが出来ます。
写真でもわかるように、照明は必要な箇所、最低限にしかありません。訪れた日が曇天だったにも関わらず、中に入ると「暗い」というのが第一印象でした。このクロークや、奥の中央案内?が、かえって目立ちます。
左側の階段を上がったホールは天井高が低く、2.1mくらいしかありません。
そして、低いホールを抜けると、天井には57個のスカイライトのあるメイン図書室へ。この暗さに相まって、均等に広がる空からの明かりは、書籍を読むのに十分な明かりだと気づかされます。
現在より暗くなる、夕刻や雨天時、使うであろう照明が天井にあります。これが点くとどのように見えるのか。
こちらが同日夕刻(といっても4時30分)の写真です。当時の写真にも天井に照明がありましたので、復刻も同じような照度だと思いますが、壁面を照らす間接照明ではあるものの、やはり日中の内部の方が光が良かった、というのが本音です。
図書館にいる間、たくさんの見学者と、図書館を利用する多くの市民が来館していました。80年以上前に建築家によって設計された図書館。この図書館が近寄れない骨董品ではなく、普通に使われていることに感銘を覚えます。そしてもちろん入場無料です。
(おまけ)
ヴィヴォルグからサンクトペテルグルグまで各駅停車で2時間の旅。道中停車した小さな無人駅。駅名はなんと「117km」
想像するに、サンクトペテルブルグから117kmのところにある駅、ということだと思いますが、周りに人家は見当たらず。ロシアは広大ゆえに、地名すらない場所があるのか、と考えてしまいました。
※この建物はフィンランドとの国境に近いロシアにあり、ビザ取得の関係でなかなか気軽に訪れるとはいかないかもしれませんが、アルヴァアアルトの建築やアルテックの家具に興味がある方は、ぜひ一度訪れてみてはいかがでしょうか。この講堂のために作られたスツール60が最も似合っている場所でした。ここで書いた内容に関するご質問や、行き方などご興味がある方は住文舎までメール頂ければと思います。mail@juumonsha.com